PROFILE

田實 佳郎
RESEARCHER

YOSHIRO TAJITSU

高分子の圧電性や光弾性などの結合効果を利用したデバイス開発研究を長年進めている。近年は、特徴のある“着る端末”の実現を「圧電組紐」を利用し図っている。

平成28 年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)受賞
TV 東京 2015 WBS(world business satellite)トレたま大賞 優秀賞
米国電気学会:IEEE James R Melcher Prize Award -2008

原点は、空へ上がるロケットだった

子どもの頃、サターンロケットの打ち上げをテレビで見た。水蒸気の中からゆっくり姿を現し、熱で揺れる空気の中を空へ向かっていく。月面着陸よりも、その瞬間の方が強く心に残った。 あの時感じた「すごい」という感動が、学びたい気持ちの始まりだった。

夢は形を変えながら近づいていく

最初はロケットを作りたいと思った。でも現実を知るほど、一人ではできないことが分かってくる。人工衛星へ。さらに材料や仕組みへ。夢は小さくなったのではなく、自分が手を伸ばせる形へと変わっていった。

挫折の中で見つけた道

大学に入ると、学びの難しさに直面した。高校までとは違い、自分で埋めなければならない空白がたくさんあった。その中で、面白いと感じたのが材料の研究だった。物質がどうできているのか。どんな性質を持っているのか。宇宙への憧れは消えていったけれど、「仕組みを知りたい」という好奇心は残り続けた。

生体に近い材料との出会い

医療や生物への関心から、生体分子に関わる研究へ進んだ。理化学研究所との研究の中で、新しい材料の性質が見つかり始める時期に重なり、思いがけず注目される成果も出た。運やタイミングも大きかった。けれど、その経験が研究を続ける覚悟になった。

ポリ乳酸というテーマ

その後出会ったのがポリ乳酸という材料だった。環境問題とも関わり、生体分子にも似た構造を持つ。この材料の可能性を、長い年月をかけて探り続けることになる。最初はフィルムとして研究したが、決定的な用途が見つからない。性能はあるのに、社会に届かない。研究には、そんな停滞の時間もあった。

糸になり、形になり、道が開けた

転機は、材料を繊維にしたことだった。さらに組紐にしたことで、壊れにくくなり、ノイズも減り、性能が安定した。縫い方や形によって機能が変わることも分かり、研究は新しい段階へ進んだ。そして京都の職人や研究者との出会いが、研究を大きく動かした。組紐や刺繍という昔からある技術と、新しい材料が結びついた。異なる分野の人と出会うことで、思いもよらない可能性が生まれる。それを実感した時間だった。

研究の楽しさとは

研究では、誰も正解を教えてくれない。答えがあるかどうかも分からない。それでも考えて、試して、見つけていく。研究は、クイズを解いているような楽しさがある。若い頃は、面白ければよかった。論文が評価されれば満足だった。でも今は違う。社会で使われて、誰かの役に立って初めて「できた」と思えるようになった。研究は、一人で完結するものではなく、多くの人と関わりながら形になっていくもの。異なる分野の人たちと出会い、支えられ、一緒に進んできた時間そのものが、わたしの人生の大きな財産になっている。

次の世代に伝えたいこと

自分なりの達成を重ねていけばいい

目標や達成感は、人生の段階によって変わっていくものだと思います。 若い頃は、大きな夢や理想を思い描き、それが本当にできるのか、不安になることもあります。

でも経験を重ねれば、どうすればそこへ近づけるのか、少しずつ道筋が見えてくる。 「夢」という言葉だったものが、やがて「目標」や「実現したいこと」に変わっていくのだと思います。 だからその時々で、自分なりに「ここまで来た」と思える達成を重ねていけばいい。

先のことは誰にも分かりません。 社会も、自分自身も、想像以上に変わっていきます。 だからこそ、自分にとって意味があると思えることを、楽しみながら続けていってほしい。

それがきっと、自分の道になっていくのだと思います。